Voices

支援を受けた研究者・学生等の声

カイコ×アリ×人との共生で洋服を作る?!biocoutureプロジェクト

2023.01.23

池永照美

大学院生物資源環境科学府博士後期課程


九州大学では、学生のユニークなアイデアや研究プロジェクトの実現を助成するチャレンジ&クリエイション(C&C)事業を九大基金によって運営し、1997年からこれまで延べ千人超が参加しています。現在、C&Cプロジェクトに採択された博士後期課程の池永さんに研究のきっかけ、今後の展開などについてお話を聞きました。

どういった研究をされていらっしゃいますか?
池永現在進めている「biocouture(bio=生物、couture=仕立て)」プロジェクトでは、人間が環境を整え、カイコに素材を紡いでもらい、それをクロトゲアリの巣作りの習性を利用して衣服に縫製してもらうという実験をしています。
服飾業界が環境に与える影響は非常に大きいと言われていますが、カイコとアリの生命力だけで作っているため、原材料や輸送費などゼロ、CO2も全く出ません。

この研究はずっと以前から?
池永:私は学部から修士まではフランス文学を服飾描写から研究していました。
19世紀は日本が西洋化し、ヨーロッパにも着物が知られるようになった時代です。当時の小説等で着物やシルクの描写がよくでてくるのを見るにつれ、実際のものに興味が移っていきました。
そこで博士課程では生物資源環境科学府に進学したのですが、自分の中ではカイコの習性に対する興味からデザインへ(興味が)移っていった、という感じです。

そこからどうやってこの研究へたどり着いたんでしょう?
池永:九州大学でハキリアリの研究をしている村上貴弘准教授が(糸を)紡ぐアリがいるんだと教えてくれたのがきっかけです。お話した通り、研究で使っているクロトゲアリは、自分たちの幼虫が本来繭をつくるために出す糸を利用して、葉同士を紡ぎ合わせて巣をつくるという習性があります。ツムギアリというアリを試験管に入れると、試験管の蓋を糸でふさぐという話を先生から聞いて、クロトゲアリでもこれはいけるんじゃないかと思ったんです。

移巣したアリが紡いだデザイン。


実際見るとアリのデザイン、ロックですねー!
池永:はい。アリがデザインするんです。実験では、カイコが紡いだ素材のパーツをプロがデザインしたもの、全くデザインしていないもの、にアリをそれぞれ配置(移巣)して、カイコが紡いだ素材を紡いでもらおうとしたんですが、こちらが意図したところには紡いでくれず、思わぬ箇所を紡いでくれて、アリの自然なデザイン力に驚かされました。アリがデザインできる空間を生み出すために、人の関与の仕方も工夫が必要だとわかりました。

チャレンジ&クリエイションに応募したきっかけは?
池永:2,3年前、コロナが始まったくらいからアイデアを練っていたのですが、プロジェクトを実施するのには資金が必要です。コンセプトを受入れてくれるところを探していたところ、ビジネスモデルがまだ完成していなくても自由なチャレンジが出来る、というのを聞いて応募しました。

アピールポイントは?
池永:カイコだけ、アリだけという研究は私以外にも研究されている方はいらっしゃるんですが、カイコとアリを一緒に協働させる、さらにデザインを取り入れた研究というのがアピールポイントかな、と思い、応募の際にもその点をアピールしました。


カイコが作った素材のパーツを手に。

採択された際はいかがでしたか?
池永:1年間の支援なので、具体的プランを考えていかなきゃなとまず思いました。ありがたいことにチャレンジ&クリエイション以外に、同じくQRECのアイデアバトルでも採択された他、学内のエネルギー削減のための研究に対する賞金(令和3年度エネルギー研究教育機構若手研究者・博士課程学生支援プログラム銅賞)や、第1回宮若国際芸術トリエンナーレ「TRAiART」でも奨励賞を頂いたため、研究が加速するなと思いました。

今後の計画は?
池永:今はまだ規模の小さい研究なので、社会実装したいです。ファッション業界は新しい生地を探している方が多いんですよ。もちろん今回の研究のようにアリと人とカイコのコラボで作った物が良いですが、カイコとアリ、それぞれに良さがあるので、個別の社会実装でも良いなとも思っています。
例えばミツバチは蜜を、カイコはシルクを提供してくれて、人と共生しています。アリも人との共生が出来ないかなと。アリもミツバチと同じ社会性のある昆虫です。今回はアリが糸を紡ぐ習性に注目しましたが、そういった習性を技術としてアリにお願いできるようになれば、養蜂や養蚕のように人と暮らすことができるようになるのではないかと思っています。いずれは人々の価値観を変えて、社会実装の段階まで進めていくのが目標です。

最後に寄附者の皆さまにメッセージを
池永:C&Cは学生の未完成なプロジェクトでも支援していただけるため、失敗を恐れずにチャレンジでき、本当に感謝しています。ありがとうございます。

村上先生からコメント
 

持続可能な社会のための決断科学センター准教授 村上貴弘
池永さんはサラッと話をしていますが、この研究は、養蚕という6千年前の家畜化から、次の6千年に向けて養蟻という人間と共存していくための社会進化の関係性を変えていくすごいアイデアなんです!カイコが野生から「人がいないと育たない」養蚕へと変化したプロセスは謎に満ちています。人間の社会というのは変わらないと思いがちだけれども、実際に社会を変える可能性のあるトランスフォーメーションのアイデアを学生から提案してもらえたのが教員冥利につきますね。専門分野だけに凝り固まった頭だとなかなか出てこないものではないでしょうか。


 このインタビューは、九大広報 126号に掲載された内容のロングバージョンです。


 ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター(QREC)
米国で起業家として大成功をおさめた九州大学の卒業生、ロバート・ファン博士の百周年記念寄附をきっかけとして設立されたアントレプレナーシップに関する総合的教育・研究センターです。

チャレンジ&クリエイション(C&C)
「キャンパスから創造と挑戦の風を起こそう」をテーマに、九州大学基金の支援を受け、本学学生のユニークなアイデアや研究プロジェクトの実現を助成する全学事業です。
新規性や社会的インパクト等を基準に採択され、最大50万円の資金提供を受けて計画実現を目指します。