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支援を受けた研究者・学生等の声

光エネルギーの有効活用から可能性を探る!

2023.04.03

宮田 潔志 准教授

理学研究院化学部門


持続可能社会の実現は21世紀に生きる人類共通の課題であり、深刻化するエネルギー・環境問題の解決は、向こう100年以内には必ず解決しないといけない問題です。20世紀における食糧問題を科学技術の力で乗り越えて来たように、何らかの形でエネルギー問題の解決策を見出す必要があります。「九州大学基金 エネルギーの脱炭素化に向けた研究事業」では異なる専門性を持つ研究者が協力し合い、この課題に取り組んでいます。

今回はその中から光エネルギーの有効活用から可能性を探る研究グループの代表、理学研究院化学部門の宮田 潔志 准教授にお話をお聞きしました。

- 光エネルギーとは具体的にどういったエネルギーのことでしょうか?

宮田 ひとくちに光といっても、電気や熱による創出といった様々な光エネルギーがありますよね。例えば、特に太陽から供給される光エネルギーは自然エネルギーとして最大規模なので、有効利用がひときわ重要です。
ところで、身の回りを見渡してみて、私たちはいま、太陽の光エネルギーを有効に活用できていると感じますか?

- 太陽のエネルギーを有効に活用できているか…?考えてもみなかったです…。

宮田 太陽から降り注いでくる光エネルギーは様々な形で別のエネルギーに変換され、身の回りに存在しています。例えば、夏にマンホールがやけどするくらい熱くなるのは、光エネルギーが熱エネルギーに変換されているからです。地球上の太陽光エネルギー総量は、人類が使う数千倍ともいわれています。つまり、ほんの一部でも有効的に使えるようになると、原理的には一気に課題が解決し得るんですよ。

- 確かに使わないともったいないですね。


宮田 そうなんです。我々のグループでは、光の有効活用の新しい可能性を、「化学」の力で拓こうとしています。
太陽電池を使うと、光エネルギーは部分的に電気エネルギーに変換することができます。植物は、光エネルギーを巧みに利用して光合成を起こし、生体内で利用するエネルギーとしています。これは光エネルギーを化学エネルギーに変換していると表現できます。
エネルギーの形を自在に変えることができれば、様々な問題を解決できます。光エネルギーが熱に代わってしまう部分を電気エネルギーに変換できれば、温暖化を抑えながらエネルギー問題を解決に向かわせることができます。光合成を人工的に起こすことが可能になれば、温室効果ガスを化学的に減少させることもできるかもしれません。逆に言えば、人類がまだ日々降り注いでくる光エネルギーをうまく成型する技術を持っていないため、様々な問題が生じているという見方ができます。科学が生み出す分子の特徴をうまく融合させることで、自在にエネルギーを変換できる分子システムの創成に挑んでいます。

- なるほど…!グループの先生5名の具体的な研究を教えていただけますか?


宮田 私たちの武器は、構成員の研究者それぞれ独自に磨いてきた分子光技術です。大きくは「光エネルギー変換技術」、「材料合成技術」、「分光分析技術」の3つに分けられます。

独自の光変換技術、例えば楊井准教授の光アップコンバージョン技術は低いエネルギーの光を高いエネルギーの光に変換する技術です。光といっても色んな波長があって、例えば可視光の範囲では赤色は波長が長くて低エネルギー、青色は波長が短く高エネルギーです。さらにエネルギーの低い赤外光エネルギーは地表に届く太陽光のうち48%ともいわれていて、これが高エネルギーになって使えるようになると効率が上がりますよね。また、中野谷准教授は電子デバイスについても精通しており、例えば有機ELを使った電気-光変換技術などに特に詳しいです。

材料合成の技術は、例えば小野准教授のタンパク質(酵素・抗体)や細胞内の小器官などの生体材料を模倣することで、高機能性を示す材料やデバイスの開発を目指す「分子複合体創成技術」、アルブレヒト准教授はスマートフォンやTVのディスプレイとして市販されるようになった有機EL素子をより安く大面積化を可能にする”塗布型”発行材料「デンドリマー」創成技術の研究をされています。

そして、これらの機能を設計していくためには、そもそも原理をよく理解してなければなりません。私が取り組んでいるのは原理解明に不可欠な超高速分光分析技術の研究。それぞれの尖った技術を統合し、ここでしかできない連携研究を進めています。

- グループでやる意義というのはどういうところでしょうか?

宮田 光化学に関していえば、これほど各方面で最先端の研究が一つのグループで出来るというのは、日本、世界でも数少ないんです。連携は世界中様々なところで行われていますが、最先端だからこそ、連携においてもすべてが手探りです。例えば楊井先生たちの研究結果を私の超高速分光分析技術で計測するためには、簡単に計測といっても、計測できるようにするための色んな条件をクリアにしないといけません。
私のグループでは超高速分光分析と合わせることで1兆分の1秒で分子に何が起きているかを調べることができますが、世界的にもかなり珍しい分析であり、装置やプログラムも自分で作ります。研究結果を計測し、性質を調べるには、新しい材料に合わせた計測システムにしなくてはいけないし、材料自身も計測可能な形態で用意してもらわないといけない。お互いに歩みよりが必要なものなんです。これが同一研究機関内で直接やり取りできるというのはすごいメリットなんです。

所狭しとたくさんの機器が置かれた研究室。無造作に置かれているかと思いきや、この一つ一つは綿密に計算され、一つの計測器として配置されています。

- 計測と言っても単純じゃないんですね…世界にも数少ない最先端の研究をしている研究者が気軽にやり取りしながら研究できる環境って本当に贅沢なんですね。

宮田 そうですね、我々のグループはチームワークの良さが一つの特徴だと思っています。月に一回以上はグループ間で研究交流を行っており、それぞれの強みが相乗的に作用するポイントを常に探りながら研究を進めています。互いに刺激になりながら研究を精力的に進めるのはもちろんですが、次世代を担う若手研究者が次々に育っていく理想的な学びあいの環境も作っていきたいと考えています。ゆくゆくは地域の小中高生に向けた情報発信の場もつくっていきながら、地域を巻き込みつつ活性化させていけるエネルギー人材養成のプラットフォーム創成に一役買わせていただければ最高だと考えています。


グループの先生が一同に会して開催された唐津でのワークショップでの集合写真。当日は各先生の研究室の学生によるポスター発表なども行われ大盛り上がりでした。皆楽しそう!

- 今後のグループの目指すところは何でしょうか。

宮田 あくまで一例ですが、例えば人工光合成ですね。現在、人は化石資源を有用化合物に変換し、産業活動を行い、二酸化炭素を排出しています。これは資源を一方通行でしか使用出来ておらず、資源は枯渇し、二酸化炭素がたまるし…と色々な課題がありますよね。もしこの二酸化炭素を人工光合成で有用な資源に変換できれば、この一方通行の資源利用を循環させることができます。皆そのことはわかっているんですが課題があってなかなか実現に至っていません。我々のグループでは、その課題解決のため、光アップコンバージョンと人工光合成を組み合わせた研究をしています。こうしたカーボンニュートラルに向けた抜本的な解決を我々のグループでは目指しています。

- 日々研究で大変かと思いますが、リラックスしたい時はどうされていますか?

宮田 研究はやりがいに満ちているので、個人的には大変という感覚はあまりありませんが、個人的にはサウナが趣味で良く行きます。熱エネルギーは使いにくいという印象をお伝えしてしまいましたが、リラックスには欠かせないですね。九州のサウナの有名どころはほぼ行ったことがあるので、何でも聞いてください。

- 今回基金でご支援をお願いしていますが、
研究予算が増えるとどのような効果が考えられますか?


宮田 予算は研究を進めるための燃料のようなものなので、研究自体にとっても助かりますし、何よりも予算の不安が少なくなると研究に割ける時間が増えることが大きいと思っています。研究に不可欠な予算確保のための申請書執筆は命を削られている感覚が強く、時間も莫大に取られるので大変です。時間をかけてクオリティの高い書類を書かないと資金不足に陥るけど、書類作成に時間を割きすぎると肝心の研究に割く時間が無くなってしまうという板挟みに常に苦しんでいます。この状況が緩和されて、研究に集中する時間を増やせるのは本当に大きく効果を持つと思います。

また、予算が増え、申請書に割いていた時間の分に余裕ができると、研究以外の活動についても爆発的に動きやすくなるのは疑いないです。先ほどもお話したような、次の世代へ向けた学びの場を提供したり、社会とのつながりを作る活動にも目を配れるようになると考えられます。

- 最後に、寄附者の皆さまにぜひ伝えたい事がありましたら!


宮田 世界的に見ても本当に当該分野における最高のメンバーが集まっているので、もし仮にご支援をいただければ九大を光化学分野において日本の、いや、世界の中心にできる!くらいの意気込みを抱いています。


私は「未来の社会を支える技術と人材を創出する場所である大学が元気になれば、社会全体が元気になる」と強く信じています。今の閉塞感漂う人類の状況を打破し、基礎研究から社会実装まで一気通貫の展開を実現するためには、やはり社会からのご支援もどうしても必要だと考えています。研究予算をめぐる日本と欧米の一番の違いは、産業界から大学への投資が一桁以上少ないという点だそうです。真の意味で大学と社会が連携し、安心して応援していただける信頼を得られるべく精いっぱい頑張りますし、産学官民一体となって協力しながら人類の可能性を広げていける、そのような未来を何とかして実現していきたいと考えています。ご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。


エネルギーの脱炭素化に役立つ材料の研究プロジェクト
代表 理学研究院化学部門 宮田 潔志 准教授

サウナがご趣味の宮田先生。

九大で好きなスポットは中央図書館。とにかく雰囲気が良くておすすめです!


エネルギーの脱炭素化に向けた研究事業へのご支援のお願い
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異種光機能性分子の融合化が拓く光エネルギー変換システム
宮田先生が研究代表者を務めるエネルギー材料デバイスクラスターの紹介ページです