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支援を受けた研究者・学生等の声

博物館の標本データベースをととのえる!

2024.04.01

伊藤 泰弘 教授

総合研究博物館


総合研究博物館 箱崎サテライト拠点化事業」では、箱崎サテライト旧工学部本館を拠点とした常設展示・企画展示・収蔵展示の実施、そして伊都キャンパスでの標本資料研究・教育ブランチを設置と、保存・見せる・学ぶの機能を備えた新しい博物館事業を展開しています。
今回は総合研究博物館の伊藤教授に、博物館の重要な機能の一つ、標本の所蔵情報データベースについてお聞きしました。


先生の研究について教えてください。

私の専門は地質学・古生物学です。元々古生物の二枚貝を研究していましたが、今は標本データベースを作り、研究のインフラを整備することを手掛けています。


古生物というと、アンモナイトを真っ先に思い出す方も多いのでは?

そうですね、アンモナイトは広い地域で生息していたため、地質の調査にはよく使われるんです。地質時代は、その当時生息していた古生物を見て、例えば「この種類のアンモナイトが生きていたから白亜紀の〇〇という時代だな」と言ったような時代(相対年代)の特定の仕方をするんです。ただ、最近では恐竜が人気で、アンモナイトや二枚貝のような無脊椎動物の研究者が減っているのが寂しいところです…。



研究の重要なインフラを担う標本データベース

標本データベースを手掛けるきっかけは何だったんでしょうか

以前私は東京大学総合研究博物館に在籍していたのですが、その際に標本整備に携わったのがデータベース化に本格的に取り組みだしたきっかけですね。実は元々ポスドクのときにバイトで標本整理やデータベースの入力作業をしたのが始まりです。その前にも学生の時に標本整理のバイトをしていたのですが、その時に「標本情報を正しく整理する」面白さに目覚めたんですかね。
東京大学は戦時中、空襲などを避けるために標本を疎開先に移し、難を逃れたものの、標本の管理が一度難しくなった経緯があります。その後、標本を守るという強い意志のもと、再整備が行われたわけです。先へ先への研究がメインにとらわれがちの大学で、研究の終わった標本が非常に重要なものと位置付けられていたんです。というのは古生物学のような自然史科学の研究において標本そのものが研究を裏付ける重要な証拠で、研究のインフラとして使われるものだからです。


どんな風に実際使われているんですか?

例えば古生物を論文で発表する際、新種なのか、どの分類に属するのか、など過去に発見された標本と比べています。まずは先行研究の論文の標本写真と比較し、大体はそれで分かるのですが、例えば細かい部分がどうしても分からない時は実物を見る必要があります。論文にはその標本の所蔵先と標本番号が書かれていて、「標本は〇〇大学にある。見に行こう!」となります。また、論文で写真に掲載できる標本は限られているので、研究で使ったそれ以外の標本は所蔵先に行かなければ見られません。もしそういった標本も見ることができれば研究が広がります。そういう時に、今でこそデータベースで標本を調べることができますが、以前は所蔵機関が発行する標本目録で確認したり、今でもしますが直接所蔵先に問い合わせたりしました。



先行論文の写真と標本を確認して…という作業は研究や論文作成には必須です。オンラインのデータベースとなった今でももちろんその作業は変わりません。

すごくアナログだったんですね!それは知る人ぞ知る、という感じで…

そうなんです。せっかく標本があっても誰も気づかない事もありうるんです。標本の所蔵情報や標本画像をデータベースやデジタルアーカイブにして、どんどん発信していけば世界中から標本を研究に役立ててもらえると思います。また、今は標本を見に来る古生物の研究者は年に十数人ですが、さらに増えてもっと研究交流できることを期待してます。
データベース化することは、標本に光を当て、研究がさらに進むのに非常に重要なんです。



白亜紀のアンモナイトホロタイプ数は日本一!お宝ざくざくの収蔵品標本

九大の標本はどれくらいあるんですか?

標本数はとても数えきれない、というのが正直なところでして…というのも、まだ石の中に埋もれた、クリーニング前の状態のものもたくさんあります。クリーニング後の標本数だけでも5万点以上になるでしょうか。


すごいたくさん!その中には貴重なものもあるんでしょうか。

実は九大は、白亜紀のアンモナイトのホロタイプ(新種を提唱する際にその生物の特徴を保証する基準標本として認定されているもの。唯一無二として国際的に保管がほぼ義務付けられたタイプ標本)が日本で一番多いんですよ!ホロタイプに認定されるものは、通常その生物固有の特徴を多く有し、保存状態も良いものが選ばれる、まさに我々研究者にとってのお宝なんです。

他大学は恐らく九大の半分位の保有数じゃないでしょうか。九大の研究基盤のポテンシャルを感じてもらえると思います。


まさにお宝、ホロタイプの標本。上から発見時、整理途中、整理完了後と情報を紙に整理しながら標本が出来上がっていきます。整理途中で分類が変わったり新種とわかったりすることも。これらの情報は研究者の努力の結晶ですので標本本体と一緒に大事に保管しています。


世界中から標本に瞬時にアクセスできる仕組み

データベースはどのように作られるんですか?

私は今、日本全国の古生物標本情報のとりまとめをしています。日本にはサイエンスミュージアムネット(S-Net)という情報検索サイトがあるんですが、各研究機関が持つデータベースがそこで検索できます。これらのデータをGBIF(地球規模生物多様性情報機構)ネットワークに共有することで、世界中でアクセスが可能になります。GBIFではダーウィンコアという標準データ形式を使って、世界中の博物館や研究機関からの標本データを集約して、それを提供しているんです。


世界中からアクセスできるって便利ですよね

そうなんです。ただ、博物館では「データにアクセスできる」というのは、標本の「目録化」と「配架」の2つの機能を満たすことだと思っています。目録化は随分と進んできましたが、配架についてはまだまだ本学は満足に出来ていません。見たい標本がすぐに取り出せる状態になるよう、まだまだ整備を進めているところです。


標本を閲覧したいという問い合わせもあるのでしょうか?

九州大学は古生物学者、特にアンモナイト化石の研究で非常に有名な故・松本達郎名誉教授の標本を多く保有していることもあって、多くの研究者から問い合わせがあります。



伊都ブランチで。背後の保管・収蔵用ラックにはクリーニング前の石が所狭しと並べられています。この後クリーニングして標本として整理し、写真撮影をしてデータベースに保存していきます。

ご寄附を頂くことでどのような効果が起きているのでしょうか

一つには伊都標本資料研究・教育ブランチ(伊都ブランチ)の保管・収蔵用のラック、これは本当にありがたいんです。お話した通り、クリーニング前の石の状態のものから、クリーニングして標本として整理出来た物まで、多くの収蔵品があります。これまではスペースがなく、場所をずらしながら作業していたんです。ラックが整備されたことで、保管場所が定められて先ほど言った配架もきちんと出来るようになりますし、すごく感謝しています。今後は伊都ブランチでクリーニング、標本整備といったことを出来るようにしたいと思っています。学生は伊都キャンパスに多くいるので、研究環境が整備出来ることもありがたく思っています。また、古生物って、研究者ももちろんですが、研究者ではない一般の方々との交流もかなりありまして、そういった皆さんにも魅力を知ってもらって、標本に触れるきっかけ作りの活動が出来ればと思っています。

単純にデータベースと言っても、研究の根幹を担う重要なツールなんですね。
新たな標本がどんどん見られるようになるのが楽しみです、今日はありがとうございました!





「総合研究博物館 箱崎サテライト拠点化事業」
総合研究博物館 伊藤泰弘教授
九大の好きなスポットは箱崎サテライトの標本室という、博物館ラブ!の伊藤先生。
「標本室を開けた時の香りが落ち着くんですよ」とのこと。独特の香りがありますよね。


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