支援を受けた研究者・学生等の声
シミュレーションで都市のエネルギー計画を作る
住吉 大輔 教授
人間環境学研究院
持続可能社会の実現は21世紀に生きる人類共通の課題であり、深刻化するエネルギー・環境問題の解決は、向こう100年以内には必ず解決しないといけない問題です。20世紀における食糧問題を科学技術の力で乗り越えて来たように、何らかの形でエネルギー問題の解決策を見出す必要があります。「九州大学基金 エネルギーの脱炭素化に向けた研究事業」では異なる専門性を持つ研究者が協力し合い、この課題に取り組んでいます。
今回はその中から将来の都市エネルギーシステムを検討できるプラットフォームとしてGISデータを基にした都市エネルギー需給シミュレーターの構築を目指すグループ代表、人間環境学研究院 都市・建築学部門の住吉 大輔 教授にお話をお聞きしました。
―GIS(地理情報システム)のデータというのは、例えば我々が日常使っているような地図アプリとどう違うんですか?
住吉 地図アプリには情報が入っていないんです。GISデータには、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)に色々な情報が関連付けられています。私が使っているのは建物の面積や用途、階数などの情報が含まれているものです。
―エネルギーのシミュレーションというと、一般家庭単位だとイメージがわくのですが、都市レベルというのはどこかで実施されているのでしょうか?
住吉 都市レベルのエネルギー予測は、統計データなどに基づいて年間の総量を求めるような研究はこれまでにもなされてきましたが、私が取り組んでいるのはもっと細かな時間ごとの変化を含めた予測であり、世界的にも例が少ないものです。論文などもまだまだ少ないと思います。
―そんなに珍しい研究を先生はどういうきっかけでしようと思われたんですか?
住吉 元々博士課程の時、私は建築物の空調の最適化を研究していて、その後も家庭用燃料電池の省エネルギー等、エネルギーの削減というのを基本テーマにしています。日本は食料自給率がかなり低いと言われていますが、エネルギー自給率はもっと低くて、13パーセントしかないんですよ。2050年のカーボンニュートラル社会実現に向け、太陽光発電や風力発電といった変動性の再生可能エネルギーが必要と言われていますが、そのためにはどの程度の機器を導入するかといった検討が必要です。さらに機器を導入するにしても無計画には置けませんから、都市でどのくらいエネルギーが使われるのかといったシミュレーションが重要じゃないかと思ったのがきっかけです。
―各都市でも再生可能エネルギーを活かした都市計画などなされているのかなぁと素人的には考えていました。
伊都キャンパスイーストゾーンにある大階段で。4層吹き抜けの空間に天窓から光が差し込み開放的な空間となっています。ここでは腰かけて設計演習の講評会などができ、すぐ隣の建築学科製図室では設計課題の締切り前に遅くまで学生たちが残って作業している様子が伺えるなど、大学らしい若いエネルギーを感じることができるそうです。
住吉 福岡市でも2040年度温室効果ガス排出量実質ゼロというのがチャレンジ目標として掲げられている通り、今後も色々な都市で計画がなされると思います。
ですが、これまで都市計画にエネルギーという観点自体がなかった。現状で言うと、エネルギー消費統計なども県単位で示されていて、市や町といった地方行政単位の細かなデータというのは基本的にないんです。今後、太陽光発電や風力発電をもっと導入する必要がありますが、これらは日射や風の条件により発電状況が変動するため、発電しないときにどうやって電気を供給するか、発電しすぎるときにどうやって電気を貯めておくかが重要になります。都市にどうやって再生可能エネルギーを導入していくかを考える際、今判断材料として使えるデータは「こんなものかなぁ」という期待値も含まれた大まかなものになってしまうため、どうしても一般的な対策になってしまいます。
―それはもったいない!せっかくならより効率的にエネルギーを使いたいですよね。
住吉 都市の中で多くのエネルギーを消費している建物のエネルギー消費をシミュレートできれば、日射や風の条件と重ね合わせることで、いつ頃どれだけの電気が足りないのか/余るのかが分かり、その過不足を埋めるために、電気自動車を含む蓄電池や水素への変換がどれだけ必要なのか計算できるようになります。夏に余った電気を冬に持ち越すのに、水素に変えて貯めておくことが考えられますが、そのために水素設備がどれ位いるか、といったことを計算したいのです。
また、様々な省エネルギー技術や発電技術について、その効果を都市レベルでシミュレートして、どれが効果的か、横並びで評価し、何に投資するべきかを検討することができるようになります。都市のエネルギーシミュレーターは、未来のエネルギー供給のあり方を検討するための重要なツールになると考えています。
―先生が言われるように、街によっても全然エネルギーの使われ方が違いますよね、ビジネス街と住宅街の違い、家の密集度の違い、昼と夜の違い…過去をシミュレーションすることももちろん難しいですが、日本の人口が減ったり、働き方も変わっていくように、未来のシミュレーションも難しそうです。
住吉 そうなんです。現状と未来では都市の在り方、建築手法も違うかもしれない。このグループではそういったところを人間環境学研究院の都市計画、建築の専門家が集まって一緒に研究しています。シミュレーションといいましたが、都市全体のエネルギーを5分間隔で時間ごとに計算して、エネルギー供給の過不足を都市レベルで把握する点に我々のグループの新しさがあります。これにより、供給過剰の時、供給不足の時にどのような設備を設けて対応すれば良いかが検討でき、未来のエネルギーシステムをどのようにすれば良いかを明らかにすることができます。また、様々な省エネルギー技術や発電技術の都市レベルで見た効果を把握できるので、様々な技術の効果を横並びで比較することができることも従来にない特徴です。
(計算結果の例)福岡市内の非住宅建物のすべての屋根に太陽光発電パネルを置いた場合に、消費する電力と供給される電力のどちらが多いかを表した図。赤いほど電力が不足しており、どの地域でどれだけエネルギーが不足するかが視覚的に把握できる。
―災害などへの対応も含めてシミュレーションできることを目指されているんですよね
住吉 はい。災害では停電時の対応が重要です。太陽光はどうしても日照の具合に影響してしまうので、電池が主力となるんですが、建物内設置の電池のほか、電気自動車も活用できます。電池の場所や容量などがわかれば、停電時にどれ位もつのかシミュレーションできます。将来的には電力だけでなく水の供給などのシミュレーションもやれるようになりたいです。
―研究の進捗状況はいかがでしょう。
住吉 一通り計算方法を構築した段階です。福岡市の計算をやってみたのですが、まだまだ1つの区を計算するだけでも数日かかる状態で計算速度が課題になっています。計算方法を改良し、早い段階で都市計画の手法として提案できたらと思っています。
―海外も検討対象にされるのでしょうか?
住吉 現在の研究対象は福岡市ですが、ゆくゆくは全国や海外にも展開したいと考えています。国によっても天気、交通状況、電力の使用量、といったものが全然違いますよね。特に勢いのある東南アジアでエネルギー計画を精緻に行えることは、経済成長を止めずに脱炭素化を実現するために重要であると思います。そのため、計算の基礎となる建物情報入りの地図データやPCが必要ですので、ご寄附により研究予算が増えれば、より広範囲の計算ができるようになるのでは、と考えています。
―エネルギーを効率的に使うと簡単に言っていましたが、都市のエネルギー計画を考えるって奥深いんですね…。本日はありがとうございました!
脱炭素化を実現するエネルギーシステムの研究プロジェクト
代表 人間環境学研究院都市・建築学部門 住吉 大輔 教授
食料問題にも興味があって、畑仕事が趣味になったという住吉先生。自分で育てた米や野菜は格別だそう!
「毎週日曜は畑仕事をしてリラックスしています」
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